私が初めて紀伊半島に足を踏み入れたのは大阪万博の年の秋でしたから48年前の事です。
会社の旅行として万博見物に行ったのですが、1日休みを取って大台ケ原まで足を伸ばしたのです。
ただ、山頂近くまで車道が続いて観光地化した姿に唖然とし、それ以降、大台ケ原に行こうと云う気持ちは起こりませんでした。
大台ケ原山頂周辺の地図
次に足を向けたのは24年後、1994年3月に奈良県東吉野村で行われた「ニホンオオカミフォーラム」でしたが、内容は「紀伊半島の四大幻獣」に関するもので、それは「カワウソ」「イヌワシ」「ヤマネコ」「ニホンオオカミ」で、その他にもオコジョ、渓流魚、蝶々等が含まれ、費用対効果はそれ程ありませんでした。
最大の呼びもの「新しく発見されたニホンオオカミの剥製」なる物も、一目瞭然で「イヌ」と解かる標本で、主催者たちの勉強不足は明らかでした。
イヌ科動物(だけに限りませんが)は乳歯から永久歯に変わると、歯の大きさは変わらない・・・つまり、「永久歯を見ればその動物が何物であるか、ある程度の判断が付く」のですが、その事を知らず、山中で捕獲されたイヌの標本を「新しく発見されたニホンオオカミの剥製」として、客寄せに使っていた節が見られました。
兎も角「ニホンオオカミフォーラム」とは名ばかりの集会だったのです。
「新しく発見されたニホンオオカミの剥製」なる物
フォーラムのプログラムー1
フォーラムのプログラムー2
この集会の際、科学者としての立場でお話されたのが「岩田栄之」氏で、この時のご縁で、以後数年間勉強をさせて戴きました。
筆まめな方で長文のお手紙を幾度も戴きましたが、私からの返事が1ヶ月近く遅れた事が原因で逆鱗に触れ、しくじり、その後「秩父野犬」に関する見解で決定的な意見の相違を知った訳です。
「古代二ホンイヌ研究家」とされるだけあって豊富な経験と知識が捨て難く、京都府在住の岡田直士さん経由でその後も勉強させて戴きました。
勉強に行く際岡田さんは録音の許可を戴いていましたので、それを私が聞いて勉強させて貰った・・・と云う事ですが、その録音中に、岩田氏は「八木さんには云うな!」と度々繰り返していました。
十数年前岩田氏は鬼籍入りしてますので、時効となっていると思い記しますが、―内緒の話―と云う事です。
『斐太猪之介・世故孜・村上和潔・氏等が云っているニホンオオカミはサイエンスの中の物では決して無く、斐太オオカミ・世故オオカミ・村上オオカミとするのが正しい。』こんな文言が有りました。
指摘の3人も既に亡くなっていて、また、私は全く面識が無いのですが、或る意味で反面教師として認識していました。
古代二ホンイヌ研究家「岩田栄之」氏
「岩田栄之」氏発行の鑑定書
斐太氏ですが、著作の多くを読み、著作中の標本の多くを見て回った結果、ニホンオオカミの標本は一つとして存在しなかったのを知り愕然としたものです。
斐太猪之介氏
オオカミでは無かった白いキツネ
オオカミでは無かった無毛のキツネ
オオカミでは無かったクマの頭骨加工品
世故氏の場合『平岩由伎子氏主催の動物文学誌上で、「紀州の山には、世古氏らの手によって、シベリアオオカミの雌と白い紀州犬の牡を交配した子が放たれているのである。これは私が世古氏から直接聞いたことだ。」』・・・の様な首を傾げたくなる行動をしています。
ちなみに、時を経て紀伊山中に「白いオオカミ」と称する動物が現れ、周辺を惑わせたことが有りました。
(この件に関しても調査をし大凡の見当が付いているのですが、次の機会に譲りたいと思います。)
世故 孜 氏
アルビノ化したヤマイヌが現れたとする記事
アルビノ化したとされるヤマイヌ
数年前、こんな新聞記事も
また、『伊勢市在住の中井健也さんの飼い犬を私(岩田氏)が見て「このイヌは変っている。亡くなったら頭骨が欲しい、と頼んでおりました処、世古さんが中井さんから(岩田氏の文言を)聞いてそのイヌを貰い受けて、死ぬのが待ちきれず、直ぐ殺して頭蓋骨を見たら神経孔が6孔有り今泉吉典先生に送りました。
今泉先生は、私(岩田氏)にも『神経孔が6個有るのは、イヌでは初めての事』と言っていました。』等、倫理道徳上疑問を持たざるを得ない行為が多々有ったのです。
今泉博士の「神経孔が6個有るイヌ」の論文
村上氏は果無山系大塔山から山棲犬を連れて来て、戻り交配をし「戻りオオカミ」として発表した訳ですが、岩田氏が云う様にあくまでも村上氏の主観です。
「見狼記」で村上氏の戻りオオカミが取り上げられていましたが、私としては世故氏所有の(と思われる)「神経孔が6個有るイヌの頭骨」見たさにNHKNスタッフに情報提供したのです。
戻りオオカミの何処にニホンオオカミとの共通点が在るのか・・・今でも疑問です。
尚、紀伊半島の先達3人の詳細を知りたい方は当サイト「2015年3月17日の世故孜論」「2015年4月11日の平岩家の動物文学」欄をご覧頂ければと思います。
村上和潔氏
村上氏作出の所謂「戻りオオカミ」
前々項で記した和歌山県の清水さんが【何年か前に和歌山の果無山脈付近で 野犬の群れを見てから、ニホンオオカミに興味を持ち出しました】とお便りを寄せてくれましたが、
1989年7月出版の世古孜著「二ホンオオカミを追う」で掲載されている山棲犬の多くが果無山系で、著者は「ニホンオオカミの血が混じったイヌ」としています。
書籍中の山隅犬は30年前の姿になりますが、清水さんが出会った野犬の群れは、「二ホンオオカミを追う」に掲載された山隅犬の流れを汲んだモノなのでしょうか。
それとも、全く違う系統のイヌ科動物なのか、真相は遭遇者の清水さん以外解らないのです。
世古孜著「二ホンオオカミを追う」
石仏山のイヌ
牛廻山のイヌ
安堵山のイヌ
伯母子岳・大塔山のイヌ
その後、標本調査等で幾度も幾度も紀伊半島まで足を運びましたが、来年古希を迎える身としては秩父山中の調査で手一杯で、南アルプス山域、紀伊半島等での調査は無理な状態です。
南アルプス山域、紀伊半島にお住まいか、周辺にお住まいの方で興味を持って調査をされる方は居りませんでしょうか。
埋もれた情報は一杯ある筈ですが。