私の手元に一冊の本が有ります。
中公新書発刊で、前上野動物園園長だった小宮輝之氏の著書「物語 上野動物園の歴史」です。
その中の一節「ニホンオオカミの収集」に、「1879年(明治12年)には岩手県でニホンオオカミの子六頭を捕獲し、博物局に送られてくる手筈になっていたことが、内務省博物局長町田久成あての五月の文書に残されている。これによれば、岩手県ではオオカミを牧畜業の害獣として1875年より数百千頭を捕殺したが、いまだ生け捕りすることは稀であった。」とあります。
小宮輝之氏の著書「物語 上野動物園の歴史」
私は小宮氏の書物を読んで、二戸市黒澤家の毛皮を通してやり取りを行った事のある、岩手県立博物館 藤井学芸第三課長にメールを送信しました。
黒澤家の毛皮がニホンオオカミで有るかどうかより、1875年より数百千頭を捕殺したとされるオオカミの遺骸発掘調査の方が、県立博物館としてより重要だと思われたからです。
これに対して藤井課長はこんな返答をして来ました。
【八木様 メール、ありがとうございました。(中略)骨発掘の件は何とかしたいと考えております。しかし、これも関係者や周辺住民との関わりがありますので、住民感情を逆撫でしないような配慮が必要です。寄託されている黒沢家の毛皮ですが、くん蒸処理などが行われ、現在では遺伝子解析不可能な状態になっているものと思われます。さらに根拠となる資料は全く残っておらず、これに真偽を問われると厳しいところです。地元博物館の学芸員としては、可能な限り保存状態を良好な状態で維持し、後世に継承する責務がありますが、今後、これをどのような形で収束させるか?です。これまで何度も、専門家や研究者がこぞって黒沢家の毛皮について議論をしてきたものの、進展がない!ことから、私自身も思案しているところです。当方は、寄託されている以上、この毛皮がどちらであっても、しっかりと維持・管理する予定でおります。何かアドバイス等がありましたら、ご教示ください。】
藤井課長と四方山話中の私
2つの頭骨を前に森田氏と私
こうしたプロジェクトは大変な困難を伴いますので、費用の面はさて置き、担当官の「どうしてもやり遂げる」的な強い意志が必要で、私がその立場でしたら何はさておき・・・と考える処です。
実際、25年前秩父の民家で毛皮を発見した際、「何時、何処で、誰が獲った」の確定をすべく、毎週秩父に通い聞き取り調査をしました。
勿論手弁当で・・・です。
が、藤井課長は有名な「クマゲラ」研究家で、NPO法人「本州産クマゲラ研究会」の理事長を務めていて、お門違いの分野でもあります。
クマゲラ調査をやっているのに、遺骸発掘の予備調査まで手弁当で・・・と云う訳に行かないのは充分理解できます。
ただ、黒澤家毛皮の収集地とオオカミ捕殺地点が、同じ二戸市蛇沼牧場周辺らしいと解かり、少なからず期待を抱いていたのです。
本州で2ヶ所しか繁殖確認されていないクマゲラ
黒澤家は明治時代毛皮商を営んでいた
これらのやり取りをしたのは、東北大震災前の2010年10月でした。
その後私の周辺も忙しくなり、発掘調査が為されれば大きな話題になる筈だし・・・と思いつつ8年の歳月が流れていましたので、藤井課長に会うのが大きな楽しみでも有りました。
当日は13時に博物館で調査予定でしたが、日本一広い岩手県下の移動を甘く見て、少々遅刻してしまいました。
オオカミ・イヌの頭骨を観察し概略は掴めましたので、計測・写真撮影等の調査は森田さんと若い二人に任せ、藤井課長との思い出話に花が咲きました。
遺骸発掘に関しては地元の協力無しでは進まないと云う事で、つまるところは停滞している様子でした。
オオカミ頭骨を計測中の森田氏
オオカミの頭骨は後頭部が破損していて、正確な値を測定できないのですが、計測可能だった数値等から推測すると、ニホンオオカミとして記録された標本の範囲内です。
そして、ニホンオオカミの特徴として知られる湾入もマイナス状、神経孔も左右4穴ですので、外部形態からもハッキリそれと知ることが出来ました。
イヌの頭骨をオオカミと並べてみると想像以上に大きく感じられ、実際の計測値も概算で約10mm小さい値の様でした。
全体から見れば、イヌも大きさ的にはオオカミと遜色がなかっただろうと想像できます。
つまり、この頭骨の主がオオカミの集団の中に存在する事は、肉体的には可能だった・・・と私は推測しました。
管野家の先祖からの言い伝えが不明ですので、残念ながら、あくまで私の推測なのですが。
二戸市蛇沼牧場周辺での遺骸発掘調査が為された時、私の推測が陽の目を見る事になるのかも知れません。
オオカミ頭骨の上面と湾入が確認できる裏面
神経孔が4孔確認できる
イヌ頭骨の左右側面
イヌ頭骨の上面と裏面
オオカミ・イヌ頭骨(右)を正面から
オオカミ・イヌ頭骨(右)を上面から
長時間の調査が終わってから藤井課長の御厚意を得て、博物館の中を案内戴きました。
通常展示のコーナーにクマゲラを展示しているだろう事は予想していましたが、標本倉庫を覘いて私は吃驚しました。
アルビノ化したツキノワグマの親子、そしてイイズナ。
白いツキノワグマの剥製は、半世紀前新潟県長岡市の博物館で一度見た事が有りましたが、最近捕獲された2頭の剥製が眼の前に有る訳です。
山中に設置されているトレイルカメラに、同類のオコジョが映ることが稀にありますが、剥製と云えどもイイズナを見るのは生まれて初めてです。
ニホンオオカミの頭骨調査に来たのも忘れ、2頭の白いクマとイイズナに見とれている私でした。
常設展示場
標本倉庫の様子
初めてお目にかかったイイズナ
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8/26の夜から、牡の梓山犬が家族になりました。
6/29が誕生日ですので、未だ2ヶ月に足りない状態。
翌日早朝から私の散歩に連れ出しましたが、代々山育ちの血統でして、疲れる事を知らない様子。
1週間を経た現在では、私の下を行ったり来たりして倍以上歩く感じです。
最初の散歩の際気付いたのですが、空に羽ばたく様なジャンプ力を持っています。
娘の命名で「蒼穹」(そら)に決めました。
若しかしたら、来月には山に連れていける・・・そんな強靭さで、ヒョットしたら大願成就も為されるのではと、親バカチャンリンの今日この頃です。
家族になった梓山犬「蒼穹」