私が三峯神社に初めて行ったのは、娘が幼稚園の時でしたから36~7年前の事になります。
5月の連休でしたから、大輪からのロープウェイも2~3時間待ちで、そんな時間が無駄に思え表参道を登ったのですが、これが家族での最初の登山になりました。
三峯神社の宮司職は中山・広瀬・宮沢・本多・各家の持ち回りだそうで、山頂直下に茶店が2軒あり、それが宮沢・広瀬家で、歴代の宮司を務めた由緒ある家であることを知ったのは随分後のことです。
神社の遥拝殿にて幼稚園時の娘
表参道途中の薬師堂跡
表参道で見つけた「熊棚」
山頂直下の旧茶店
その頃から博物館は有ったのですが、「秩父宮記念三峯山博物館」の名が示す通り、神社の歴史と宮家に関する展示が主で、オオカミに関する物は「日鑑」に記された産立(うぶたて)の記事くらいで、私の気を引いたのは入り口近くに在った「石臼」でした。
記憶によれば、神社下を流れる『大洞川源流「(旧)将監峠」の笹藪から見つけた物』と記されていました。
不思議に思い帰宅後調べると、旧将監峠周辺は数多い武田金山の採掘現場の一つで、大洞山=飛龍山と云う事も知ったのです。
神社の日報「日鑑」・大正時代の或る日
現在の博物館の様子
大洞山頂で、「見狼記」の一コマ
将監小屋前の標識・上方が旧将監峠
奥多摩一之瀬高原の古くからの住民の多くは「田辺」姓で、いわゆる武田金山衆の一族と云われています。
笠取小屋主人・将監小屋主人・・民宿見晴らしも田辺姓で、当然血の繋がりを持っていると思われます。
5月11日早朝、奥多摩山域の登山口、三ノ瀬の「見晴らし」で身支度をしていると、懐かしい人が顔を現しました。
春の笠取小屋
将監小屋
「見狼記」撮影の際お世話になった田辺信二さんです。
心臓のペースメーカーを携帯しながら山仕事を、冬は狩りをしている方です。
猟犬の散歩ついでに親戚の「見晴らし」に立ち寄ったらしいのですが、7年振りですので、私以上に2頭の猟犬は老けていました。
最近の「見晴らし」
昔話をしながら、山仕事をしている田辺さんからオオカミ情報を聞き出そうとしたのですが、「オオカミなんて居る筈無い」・・・との思いに凝り固まっている訳で、全く相手にしてくれません。
見晴らしのお婆ちゃんにも話を向けたのですが、「早稲田大OBの人たちが昨日家の前を通ったけど・・・」と話をはぐらかせて、相手にしませんでした。
それでもめげず喰いついていると、昨年の山の遭難を思い出しつつ、こんな話をしてくれました。
昨年だけで3件の事故が周辺で起こり、遭難箇所が埼玉・山梨に跨っている都合上、両県の山岳救助隊が出動して探したのですが、不幸にして60代の女性が1名亡くなったそうです。
女性2名のパーティーで将監小屋にテントを張り、和名倉山に行ったのですが帰り道で離ればなれになり、崖から落ちて亡くなっていた・・・と。
田辺さんが救助に参加した訳では無いのですが、出動3件の内2件谷筋でイヌの鳴き声がした・・・と云う事で、猟をしている田邉さんに話が及んだそうです。
一ノ瀬高原には現在10名チョットの人が住んでいるだけでして、猟をする田辺さんは集落の全てのイヌと、猟仲間の未回収イヌの存在を知っています。
行方不明のイヌは居ない筈なのに・・・と、不思議に思っていたそうですが、日々の生活に追われその事は忘れていたのを私が思い出させた・・・訳です。
ここまで聞き出すのが精いっぱいで、「イヌの鳴き声」がどんな感じか聞けなかったのですが、正確なところは山救隊の人に直接聞くほか方法は無い様です。
ただ彼らにしたら、私たちは招かれざる人・・・の訳で、何処まで正直に話してくれるか。
田辺さん等の様に「オオカミなんて居る訳無い」と思っているなら、「ウオーーー」と聴こえたとしても、イヌの遠吠えと考える可能性は充分にあるのです。
埼玉県山岳救助隊員の訓練の一コマ
これと似た事例が23年前、埼玉県側であったのを皆さん覚えていませんでしょうか。
昨年7月13日の当ブログ「和名倉山での遭難」で
【ハンター氏は「オオカミなんて居る訳無いが、この谷には(山を越えた)一之瀬の方から良いイヌが来るんだよな!」
「俺も2回見た事が有って、あのイヌが猟に使えればナア・・・」とも、云ったのです。
この谷でハンターからこの手の話を聞くのは2度目でした。
1995年11月にこの地で、オオカミフォーラムとオオカミの誘い出しを行ったのですが、場所をここに決めたのは、小鹿野町のハンターから同様の話を聞いていた為でした。
その後、この谷に足げく通い、求める動物と思われる足跡を2度見つけ、また、昨年8月26日この欄で記した様に、三峰集落の猟師宮川淳一さんの遭遇現場確認の帰り、岡田氏が事故った沢近くからの咆哮を聴いたのです。】・・・がそれです。
この下のダムが鹿の鮮血で真っ赤に染まり・・・
小鹿野町のハンターが遭遇した大洞川上流
小鹿野町のハンターも大滝のハンターも私たちが探している動物(と思われる)の姿を見た訳ですし、救助隊の人達は“イヌと思っている啼き声”を聴いているのです。
つまり、国境稜線を挟んで秩父では一ノ瀬から、一ノ瀬の人達は秩父から変なイヌが来る・・・と思っている節があり、しかもそうした事を知り得ているのは私だけ・・・。
1歩足を山に踏み入れると、机上の理論で説明つかない事が現実に起こり得て、昔流行った「事実は小説よりも奇なり」なる諺が思い出されるのです。
この姿態ならイヌと間違える・・・かも