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Channel: ニホンオオカミを探す会の井戸端会議
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今泉吉典博士の文面から-1.

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幻の二ホンオオカミ 

オオカミは口が耳まで裂け、足跡が5本指だと日本の古文書に記されている。
だがここで二ホンオオカミCanis hodophilax というのは、そのような伝説のオオカミではなく、シーボルトが、小野蘭山の『本草綱目啓蒙』などに記されたヤマイヌと判定してオランダ、ライデンの博物館へ送った野生犬のことである。
 この短毛(背毛4センチ)のヤマイヌは、タイリクオオカミC.lupus より短脚で耳が小さい。
ところで上野の博物館に古くからあった福島県岩代産の野生犬は長毛(背毛9センチ)で、ライデンのヤマイヌとは違うようにみえる。
 だが、その骨格はタイリクオオカミやシェパードより長胴、短脚で、ヤマイヌに等しい。
そればかりではなく、耳が短く、背筋の黒色が体側の灰色毛より長く暗色縦帯(松皮模様)を形成し、橙褐色の前肢前面と淡色の内面の境に暗色縦斑があるところまで、ヤマイヌにそっくりである。
 周知のように、タイリクオオカミは夏冬で毛の長さが変わる。
ヤマイヌもこれと同じで、岩代の野生犬はヤマイヌの冬毛のものではないだろうか。
するとこれに似た大英博物館と和歌山大学の野生犬(前者は奈良県鷲家口産)も冬毛のヤマイヌということになる。 

ヤマイヌの特徴
短脚長胴のヤマイヌは平原の生活に順応したイエイヌC.familiaris やタイリクオオカミと違って、名前のように山岳で生活する原史的な生物らしい。
ヤマイヌは、頭骨の重心が前方にあり、下顎を組み合わせた頭骨を机上に置くと、下顎後端が地に着かないことでもイエイヌと区別できる。
平岩米吉氏が発見したこの特徴は、私が調べたヤマイヌの頭骨(ライデンの2個、大英博物館の1個、および国内の15個)に例外なくみられたが、イエイヌでは吻が長い品種でも頭骨の重心は後にあった(103個調査)。
 イエイヌの原種らしいディンゴC. familiaris dingo (11個)も同様である。
ところがヨーロッパ、アジアと北アメリカのタイリクオオカミは調べた頭骨(175個)の45%がイエイヌ型で、この形質ではヤマイヌとイエイヌの中間であった。
 イエイヌの頭骨側面下方には、脳神経や動脈を通す孔が5個開いている。
ところがライデンと鷲家口のヤマイヌの頭骨にはこの孔が6個のものがあった。 これは前から3番目の孔(正円孔)が外頸動脈を通す骨のトンネル(翼蝶骨管)内に開いていて外から見えないか、トンネルの前に露出しているかの違いである。
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二ホンオオカミの神経孔・この標本も孔が6

6個の型は原史的な状態を示すと思うが、これがヤマイヌ(11個)では頭骨の64%に見られたのに、タイリクオオカミ(197個)では8%にしか見られず、イエイヌ(103個)とディンゴ(11個)では見たことがない。 

紀伊深山に潜む謎のイヌ
 ところが、1990年、三重県のオオカミ研究家故世古孜氏は、この孔が左右ともに6個あるイエイヌを見つけて頭骨を送ってきた。
それは大内山系の雌イヌだそうで、頭骨の重心はイエイヌ型だが、口蓋、頬弓、前頭、甲などの形態はイエイヌと違ってヤマイヌに似ている。
 大内山系のイヌというのは、大正時代に雌イヌを山中に繋いでヤマイヌと交配させ、これを繰り返して作出した雑種だそうだが、頭骨からも両者の雑種のように見える。 
  (後日掲載の世古孜論にて詳細を)
 すると世古氏が、紀伊の深山に現在も少数生息し、イエイヌが恐れて近づかないと主張する野生犬は、ヤマイヌか、ヤマイヌとイエイヌの雑種の可能性があり、実態を調べる必要があると思う。
 というのは、もしそれが雑種なら、近年カナダに増えつつあるコヨーテC.latrunsとイエイヌの雑種「コイドック」のように、両親種のどちらとも習性が異なる新しい捕食者に発展して、生態系に重大な影響を及ぼすかもしれないからである。
またその中には、1905年に鷲家口で捕獲されたのを最後に絶滅したと信じられているヤマイヌ、つまり純粋のニホンオオカミが混じっていないとも限らないと思う。
 野生犬は富士山須走口の森林にもいるが、ここのはイエイヌが野生化した野良犬にすぎない。だが紀伊にいるというのはただの野良犬ではなさそうである。  (今泉吉典) 

本草誌のオオカミ 
中国の本草誌には狗(犬)に似た野生種として狼と豺の2種が出てくる。
この絵のようにからだが豺より大きく、毛色が灰色で前(肩)が高く、後ろ(腰)が低い狼を和名でオオカミと呼んだ。
タイリクオオカミを見知っていたシーボルトは、話に聞く蝦夷のオオカミは本物らしいが、自分が飼っていたのはオオカミではなく、ヤマイヌだと判定した。川原慶賀「動物図譜」より。
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本草誌のオオカミ図
                写真  ライデン自然史博物館(O) 

本草誌のヤマイヌ
豺(ドール)はタイリクオオカミより小さくて毛色が赤く、本物の豺を見たことがなかったわが国の本草学者は、小さい本土のオオカミやこの絵のような野生化したイヌを豺だと思い、それをヤマイヌと呼んで混乱の種を蒔いた。
アカオオカミとも呼ばれる豺はトラをも恐れさせる凶暴な野生犬で、日本にはいない。川原慶賀「動物図譜」より。
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本草誌のヤマイヌ図
                写真  ライデン自然史博物館(O)  

ニホンオオカミの模式標本
シーボルトがヤマイヌだと思って出島で飼っていたニホンオオカミの剥製。
本種の模式標本(同定する際の基準)としてライデンの自然史博物館に大切に保管されている。
本草誌のヤマイヌに似せてつくった姿勢は参考にならないが、耳や四肢の長さは、これがタイリクオオカミとは別種のオオカミであることを示している。

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二ホンオオカミの模式標本
               写真  ライデン自然史博物館(O) 
以上「週刊朝日百科」平成4年5月3日号にて掲載
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週刊朝日百科の掲載文
今から3年前の2012年、NHKで放映されたETV特集「見狼記」をご覧になった方もおいでになると思います。
番組中、紀伊半島の研究者故村上和潔氏にもスポットを当て、二ホンオオカミとは全く無縁の「戻りオオカミ」なる動物を取上げました。
番組制作側に村上氏の存在を教え、資料を提供したのは他ならぬ私です。
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村上氏が作った村上オオカミ・通称「戻りオオカミ」
「戻りオオカミ」は村上氏が作り出した、言うならば「村上オオカミ」ですから、番組には取上げない事を条件に提供した情報です。
私達の活動を、村上氏の活動と同一視されるのは困る故の条件提示でした。
何故制作側に村上氏の資料を提供したかと言うと、世古氏が今泉博士に送った、神経孔が左右6個ある頭骨の存在を知りたかったからです。 
 1990年代にオオカミ探しをしていた私達の間で、良く話題になった頭骨でしたが、誰もそれを見た事が無く、別項にて記しますが、世古家に問い質す事も出来ませんでしたので、何とか願いが叶わないかと、長期間チャンスが来るのを待ち望んでいたのです。
「見狼記」は半年以上の撮影期間を要した1時間番組でしたが、ETV特集は内容次第で90分番組にもなり得ます。
その前年同じスタッフで「熱中人」なる15分番組を制作していましたので、
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大滝山中にて・熱中人の制作スタッフと私
このメンバーなら世古氏の頭骨に辿り着けるのでは・・・そのプロセスも面白い筈・・・との思いの中多くの資料を提供したのです。
思惑通り世古氏の頭骨に辿り着いていたならば、「見狼記」はかなり違った内容になっていたと、自信を持って言えるのです。 
・・・世古孜氏の言動に関しては異論も在りますので、後日、新たに世古孜論を掲載致します。・・・

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