当欄へ木下さんと云う方から11月16日に以下の様なコメントが寄せられました。
【はじめまして。わたしもニホンオオカミに興味をを持ち探している一人です。私は過去に二匹ほどそれではないかという動物に出会ったことがあります。はじめに申し上げますと、私のニホンオオカミの定義は、一つニホンオオカミの血筋をひいていること。二つ外見が犬ではなくオオカミであること。三つワンとは泣かないこと。の三点です。つまりニホンオオカミは日本犬の中にDNAとして今でも存在していて、オオカミとして生まれてくる可能性がるということです。例えれば両親が二人とも白人ではあっても何代か前に日本人の血が入っていれば外見が全く黄色人種の子が生まれる可能性があるといったらいいでしょうか。
4年ほど前、わたしが見たのは秋田犬とシェパードの混血でしたが、外見はまさしくオオカミでした。色々調べてみますと、私がその犬にあった場所の近くには戦時中まで日本最大の軍用犬養成所があり、全国から色々な種類の優秀な犬が集められていたそうです。嗅覚や聴覚、方向感覚など優秀な犬をかけあわせれば、自然とおおかみに近い犬がうまれて来ても不思議はありません。出会った犬もそれらの子孫だと思った訳です。】
4年ほど前、わたしが見たのは秋田犬とシェパードの混血でしたが、外見はまさしくオオカミでした。色々調べてみますと、私がその犬にあった場所の近くには戦時中まで日本最大の軍用犬養成所があり、全国から色々な種類の優秀な犬が集められていたそうです。嗅覚や聴覚、方向感覚など優秀な犬をかけあわせれば、自然とおおかみに近い犬がうまれて来ても不思議はありません。出会った犬もそれらの子孫だと思った訳です。】
謎深き「二ホンオオカミ」と云う動物が誤解を持って見られている・・・と云うより、かなり穿った感じのコメントが文面から窺い知れます。
これに対し私は【私たちの求める動物と、木下さんの求めるそれには、大きな違いが有る様に思われます。
木下さんが求めている動物は「ニホンオオカミ的イヌ科動物」では無いでしょうか。
木下さんが求めている動物は「ニホンオオカミ的イヌ科動物」では無いでしょうか。
私たちは「ニホンオオカミ」或いは「ヤマイヌ」を探しているんですけど】と返信しました。
こんな感じの動物を求めていたのか?
そんな訳で今回は「分類としてのニホンオオカミ」を考えて見たいと思います。
ニホンオオカミは明治38年の捕獲を以って絶滅とされています。
近世に於ける研究は昭和5~10年頃から始まった訳で、研究の先達はそれぞれ個々の考えの下に思考した訳で、分類学的な基本は“ないがしろ”だったのです。
それは先達たちが著した書物に眼を通す事で解ります。
つまり、ニホンオオカミとして知りえる事は、頭骨標本(全身骨格も)、剥製・毛皮標本からでしか得られず、生態学的(行動形態)な物は科学的には明らかになっていない…と考えるべきです。
生態観察をした研究者は居ないのですから、当然です。
明治38年に鷲家口で捕獲された仮剥製・頭骨
分類学的な見地(つまりタイプ標本との比較)からニホンオオカミを研究した学識経験者は今泉吉典博士で、私が師と仰ぐ方です。
今泉博士は頭骨標本からタイリクオオカミ(Canis Lupus)とニホンオオカミ(Canis hodophilax)を比較し、別種説を唱えた訳で私もそれに従っています。
世界中に散在するニホンオオカミの頭骨標本を一番多く調査した者は私です。(だと思っています。)
そうした中、ニホンオオカミはタイリクオオカミとは明らかに違う特徴を持つ・・・つまり、別種となるのです。
尚、ポコックを始めとする海外の動物学者の多くは、亜種説をとっていますが、それは比較事例の数の問題だと考えています。
ドイツに3例・オランダに3例・イギリスに2例存在していますが、彼らは身近な最大で3例の頭骨しか観察していない訳で、国立科学博物館に在籍した今泉博士とは比較事例が違うのです。
そして、他の研究者の多くは、提出された個々の論文に従っているに過ぎない訳です。
そうした中、日本列島の限られた地域に生息した(している)ニホンオオカミを、イヌ科動物として一括りにし、行動形態を当てはめる事が良いのかどうか。
つまり、群れるかどうか等は「わからない」としか言いようが無いのが現状です。
存在を否定されている動物の生態観察をする事は不可能ですし、当然行動形態が判る筈無い…のですから。
ついでに云うなら、21年前に撮影した「秩父野犬」ですが、反対論を述べた学識研究者は全て、行動形態・生態学的観点からで、分類学的見地から反対論を述べた学術研究者は皆無です。
参考までに16年前行ったフォーラムのレジュメに記した「ニホンオオカミの分類的位置付け」を提示します。
【ある生物の種や亜種の命名の根拠となる標本を「タイプ標本」と呼ぶ。
その標本には“採集者、採集地、学名、和名(日本の場合)、採集年月日、標本番号”などを記す事になっている。
これが、分類学のルールである。
私達が通常ニホンオオカミ (Canis hodophilax) と呼ぶ動物のタイプ標本は、オランダのライデン自然史博物館に在る。
剥製1例と全身骨格付きの頭骨1例を含む、全3例の頭骨標本である。
これらの標本をもたらしたのは、江戸時代末期、西洋医学の普及に努めたドイツ人医師のシーボルトである。
そしてニホンオオカミ を新種とし Canis hodophilax と命名したのはライデン自然史博物館の初代館長テミンクである。
学名の Canis hodophilax に、オオカミの亜種である事を示す“lupus”が無い事は、テミンクがこれをオオカミではない、新しいイヌ科の哺乳類と位置付けたことを物語っている。
しかし、頭骨3例全てが後生の研究者達において、同じ認識下におかれているのかと云えばそうではない。
通称「頭骨A」は多くの点でニホンオオカミ的特徴を有していないため、“イヌ(Canisfamiliaris)”と考えるのが一般的になっている。
つまり、3例のタイプ標本に2種類の動物が混じっているという事なのである。
3例のタイプ標本、左からC/B/A
タイプ標本頭骨、左からB/C
正しい分類をする為に、裏付けとなる科学的実証をしなければいけないのであるが、まだ結論を得ていないのが現状である。
国内でのニホンオオカミ研究史に目を転じた時、初期の研究者達と、テミング等の認識とに、大きなズレがある事に気がつく。
平岩米吉氏を始めとする多くは、自らの描くニホンオオカミ像を研究の出発点とした為、科学的見地に立った分類は、次の世代への課題となり、混迷が混迷を呼び、一部は現在へと続いている。
しかし、ここ十数年の間に、毛皮を含む多くの標本が新しく見つけられる事となり、次第に真実の解明へと向かっている。
帯広畜産大学の石黒助教授等(現岐阜大学教授)によって、2002年9月に発表された“遺伝子レベルでのニホンオオカミの分類的位置付け”もその一つと言える。】
初期の研究者平岩米吉氏
この様に、「ニホンオオカミ的動物」であるなら兎も角「ニホンオオカミ」を求める事は大変難しいのです。
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11月18日に行われたトークイベントに、多くの方がおいで頂き誠に有り難うございました。
前号―大願成就の予感―記載の通り、時間の都合で『3頭の鹿が逃げ去る中、逃げる原因を作った(と思われる)咆哮が見事に聴きとれ、イベント参加者の中から「ウオーーー」と歓声が起きた。』・・・の映像を後半のトークでお見せしたのですが、ご覧になれなかった方たちからお叱りを受ける事となりました。
そうした方たちには何時か機会を設けて・・・とも考えて居りますので、ご容赦の程宜しくお願い致します。
トークイベントでのスクリーン(野瀬昌樹氏より)
尚、来たる12月8日(土)日本TV「世界一受けたい授業」(19:56~20:54)で絶滅動物特集を放送するそうです。
番組中で絶滅動物の一つとして「ニホンオオカミ」を取り上げるのですが、22年前私が撮影した「秩父野犬」を、「まだ生きているかも知れない」として紹介される様子です。
興味のある方は是非ご覧下さい。
日本TV「世界一受けたい授業」