7月26日22:00過ぎ、バリエーションルートを専門に山歩きをしている本多さんから電話を戴きました。
昨年11月のフォーラムにお出でになり、それから幾度か奥秩父での山歩きに同行させて貰っています。
カメラ設置のお手伝いをして戴いている本多さん
7/11.12日は旧大滝村川又集落から樺避難小屋経由で雁坂峠~黒岩尾根~川又集落を歩き、翌々週25.26は日向大谷~清滝小屋~両神山~梵天尾根~白井差峠~中双里を歩いたそうですが、命からがらの体験をして私への電話に及んだ次第です。
本多さんの命からがらの体験は、クマに襲われ死ぬ寸前まで追い込まれた・・・・と云うのです。
うら若い(くない)女性がクマの巣屈と言うべき奥秩父のバリエーションルートを一人で歩いているのですから、クマと遭遇することは充分考えられますが、聞いていた私としても今回の体験は特別な事例の様に思えました。
通常、クマは人間を恐れますから、人間を察知するとクマの方が避けてやり過ごします。
但、「突然鉢合わせをした場合と、子連れの時は危険な状態」と言われていて注意を要します。
今回は危険な状態のその2つが重なったのです。
26日AM10:00、白井差峠の手前の梵天(1476m)の頂きで鉢合わせをした両者は、瞬間、お互い左右に跳びました。
(ピークの手前からと向こう側から登って来た両者が、唐突に鉢合わせした姿を想像して下さい。)
地図上矢印の地点でクマに襲われた
大声で叫んだ本多さんは進行方向右手中津川寄りの林の急な斜面に、クマは白井差登山口が有る小森川方面に跳んだのです。
出来るだけ現場から離れるべく斜面を少し下ってトラバースして、10分位ジイーと身を潜めていると、稜線からクマが此方を探しているのが判ったそうです。
何とか気付かれない様にと願っていたのですが、母クマの執着力で発見された本多さんは、急斜面を物ともせず襲い掛かって来たクマを目の当たりにしました。
襲われる寸前サット身をかわすと、クマは瞬く間に100m以上下に転がり落ち、視界から消えてしまって、どうにか帰宅出来たと言うのです。
カメラのSDカードを解析すると、必ずと言って良い程、クマの映像が入っています。
奥多摩・飛龍山周辺で撮れた写真
奥秩父和名倉山で撮れた写真
ですので、ある程度クマの行動形態を理解している心算でしたが、今回の件には二つ吃驚させられました。
30度の猛暑の中で子連れのクマが行動している事と、1回やり過した人間を10分以上も探し回って襲い掛かって来た事です。
本多さんからアドバイスを求められた私は、「クマに遇うのが嫌なら、バリエーションルートを使うのを止めるか、ラジオを鳴らして歩けば・・・・」と答えましたが、元々山は、動物達が先住権を持っていた処ですから、「鹿や羚なら良いけれどクマは嫌」ってのは、何か筋違いの様な気もします。
クマに壊されたトレイルカメラ
奥秩父山中の熊棚
2011年10月3日、和名倉山で私も非常に良く似た体験をしています。
「見狼記」の撮影期間と重なっていましたが、カメラメンテナンスの為杣道を2時間近く登って行くと、左手30m先から突然獣の叫び声がしました。
私も吃驚しましたので叫び声を挙げると、地響きを立てて私目掛けて獣が襲って来たのです。
イノシシの叫びに似て居ましたのでそれ程深刻には考えなかったのですが、クマだったので思わずストックを手に身構えました。
様々な思考が駆け巡る中、クマに傷を負わせるのは得策では無いと考え、襲われる瞬間身をひるがえしたのですが、クマは目標が眼の前から消え、行く手の斜面に転がり落ちました。
写真上方から私目掛けてクマが突進して来た
私を襲ったクマ・40日後別の場所で撮影
現場から5分歩くとカメラの下に着きますが、恐怖で体の震えが止まらずその場で熟考しました。
NHKのスタッフにメールしましたら即座に「ヤバイ。八木さんが大事です。」の返事が印象的でした。
見狼記撮影中のNHKスタッフ
50年間山歩きを続けていますが、動物で恐い思いをしたのは、知床の羅臼山でヒグマに遭遇した時と上記の件、そして深夜苗場山中でオオカミの咆哮を聴いた3件です。
その3件より怖かったのが、現在の科学では説明出来ない事例に出会った時でした。