釣り雑誌「渓流」に高桑信一氏がオオカミ関連の記事を著された事は、2016年6月17日のこの欄に記しましたが、私の思惑通り「渓流」の読者から2件の体験情報が届けられました。
1件は本年6月の体験で超が付く程の最新情報、もう1件は南アルプス山中での体験です。
群馬県在住の三田村孝さん(56才)は長崎県出身ですが、東京在住だった27年前、群馬県六合村の定宿の主人が「野反湖から5時間歩くと岩魚が100匹釣れる」と云った言葉を信じ、秋山郷の魚野川に向かいました。
日付けの通り、2回目探索時の三田村さん
27年前、切明・和山方面に向かった
残念ながら100匹の釣果は得られなかったのですが、充分に費用対効果を満たすことが出来たので、職も住まいも六合村に移し、秋山郷に通いだしたそうです。
今でもこんな釣果があるそうです
幾度目かの魚野川通いにあたる、平成3年9月23日(月)の深夜。
上流域の小屋泊まりの際イヌ科動物の唸り声がしたのですが、その声が単なるイヌとはとても思えず、そのままやり過ごしました。
翌年の或る日の朝(AM9:00~10:00頃)魚野川・千沢合流点近くで藪に消えようとするイヌ科動物を見るにあたり、前年の唸り声とこの動物が重なりました。
後ろ姿の動物は茶系統の体色で中型の日本犬くらい、飼っている紀州犬より少し大きめでした。
それでも二ホンオオカミの存在に考えが至る事は無かったのですが、翌日和山集落の民宿に泊まった際、宿に在った鈴木牧之の「北越雪譜」に目を通すとオオカミ関連の記述も有り、深夜の唸り声、後ろ姿のイヌ科動物が「絶滅したとされる二ホンオオカミかも知れない!」と思う様になり、釣りも含め、益々この山域に興味を持つに至りました。
ただ、この山域の釣り中の死亡事故は非常に多く、三田村さんも1件遭遇しているそうです。
この山域にはこんな標識が沢山有ります
自分の渓流遡行・ザイルワークに不安を覚えた三田村さんは名高い渓流釣り集団「梁山泊」の代表に弟子入りし腕を磨き、年に一度の南アルプス山域での釣り行以外、ベースはこの山域とし27年間通い続けているとも仰っていました。
2016年6月10日(金)14時30分。
雑魚川支流外川沢河原のテンバから、2泊3日分の宿泊用具一切を背負い帰途に着いたのは数時間前の事でした。
今回3度の山行で使ったテンバ
雑魚川に掛かる吊り橋を渡り、同行の廣神一希(27)さんと遅い昼食を摂るべく木陰に荷を降ろした時、進行方向の林道辺から突然オオカミの咆哮が聴こえて来ました。
咆哮を聴いた場所で、心待ちに鳴いた方向を見る三田村さん
すぐ下を流れる雑魚川の流れにかき消される事も無く、非常に綺麗な咆哮が5~6秒間。
空腹を満たした頃、先ほどの逆方向から再び、非常に綺麗な咆哮が5~6秒間聴こえて来ました。
廣神さんに「さっきとは違う方向だね?」と問うと「同じ場所から同じ咆哮だった」の答えが。
6月10日一緒に咆哮を聴いた廣神一希さん
先に荷を降ろしていた廣神さんは最初の咆哮を確かな記憶として留めていたのです。
2回目の咆哮中、連れていたイヌの反応を探っていたのですが、無反応だったそうです。
咆哮を聴いても無関心だった甲斐犬のタツ号
深夜の唸り声、後ろ姿のイヌ科動物、そして今回の咆哮で確たる自信となって私への情報提供となったのですが、三田村さんは、この山域でのオオカミ情報等を大変勉強しておられました。
その中の一冊が1983年に(株)白日社発行した【山田亀太郎・ハルエさんの「山と猟師と焼き畑の谷」(秋山郷に生きた猟師の誌)】です。
山田亀太郎さんの聞き書き本
私の大好きな本の一つ
243Pに『山犬』として「オラが二十歳の自分の頃、ただもう山を騒いでいた頃までは、まだこの岩菅なんて山犬もいたんだ。外川(沢)の奥の岩菅ってとこには。・・・・山犬ってのはオオカミそ。」そんな件も見えます。
過去の経験を踏まえた中6月10日に咆哮を聴いた三田村さんは、その存在確認の為6月23~25日、7月20~22日と都合3回、計9日間外川沢に足を運びました。
咆哮を発したと思われる山々
最初の電話から毎日の様にお話を重ねたのですが、それに足らず情報提供方々、7月26日4時間の道程を埼玉の拙宅までお越し下さいました。
こうした、知識も豊富でフィールドをこなし、オオカミ体験を重ねた仲間が増えれば、二ホンオオカミ生存の証明もそう遅くないと思う今日この頃です。